迪子とその夫





迪子とその夫
(第十七回群像新人文学賞受賞作)

飯田章著

四六判 上製本 268頁
定価(本体2000円+税)
ISBN978-4-902616-05-X C0093
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飯田章(いいだ・あきら)

1935年東京生まれ。
作家。
早稲田大学第二政治経済学部卒業。
一九七四年「迪子とその夫」で第十七回群像新人文学賞受賞。
一九八七年「あしたの熱に身もほそり」で第九十七回芥川賞候補。
作品に、「初恋」「二十年目の夜」「蛙の目玉に灸すえて」「破垣(やれがき)」「萩の餅」「爪の色」「浮寝」など。



迪子は看護婦長をする生活力の盛んな妻。一方、弘志はうだつが上らないサラリーマンの夫。向上心のある妻と無気力な夫との心理描写をユーモラスに描いて、第十七回群像新人文学賞を受賞した表題作をはじめとする連作小説集。
 「『迪子とその夫』には全く恐れ入る。どうしたってこの人を賞からはずすわけには行くまい。世の中にはうまい人が、名前も知られずにいるものだ。」
――小島信夫氏(「群像新人文学賞」選評より)



日本経済新聞 2006年5月31日(水) 夕刊 目利きが選ぶ今週の3冊



図書新聞 2006年6月17日号




読売新聞 2006年6月18日(日) 本よみうり堂  生きる重みと情けなさ

 作文を書くに際して学校の先生に、見たこと感じたこと思ったことを、そのまま書きなさい。という指導を受けたことがある人は多いと思うが、その指導によって上手な作文を書けるようになった人は少ないと思う。なぜなら私たちは一瞬のうちにあまりにも、たくさんのことを見たり感じたり思ったりしていて、それをそのまま書くのは不可能だし、なんとか書いたところで、「犬がいてるなあ。パン食お。あ、セロテープがないわ。うわっ、くさっ」といった意味不明な文章になるからである。そこで重要でない部分を省き、前後関係を整理するなどして書き、そうすることによって誰が読んでもわかる、楽しい遠足の思い出を綴ることができるのである。
 この、『迪子とその夫』は、生活力も向上心も旺盛で生きることに対して貪欲な妻・迪子と内向的でつい憂愁にとらわれがちな夫・弘志の関係が次第に軋み、ついには崩壊する話で、これが世間話やブログネタだとすれば、そこいらにありふれた話である。
 しかし、この作品がありふれていないのは、その話が小説になっていることで、小説になるとはどういうことかというと、右で省かれたような部分を、作者もわからないままに書いていく過程で、作中の人物がわからないことを体験するということである。
 結果、この小説では、なぜそう思うのかわからない弘志が思ったことや弘志が見た風景や妻やその他の人物との会話、何気ない仕草、雨や風などが息苦しいほどの意味をもって読む者に迫ってくる。
 一九七四年から一九七七年にかけて雑誌に発表された連作四編であるが、最近多い、「楽しい遠足の思い出」みたいな小説と違って、生きることの重さと情けなさがまともに描かれていて、よい小説であると思った。
――評者・町田 康(作家、パンク歌手)



週刊読書人 2006年6月23日号



産経新聞 2006年6月25日(日) 時評文芸7月号



読売新聞 2006年7月3日(月) 記者ノート 鮮烈な古希 デビュー30年 初の小説集

 デビューから30年以上たち、古希を超えた作家、飯田章さんの始めての小説集『迪子(みちこ)とその夫』(草場書房)が出版された。新人賞が乱立し、「若さ」「新鮮さ」にスポットが当たりがちな文学の世界にあって、この異色の出版に静かな注目が集っている。飯田さんも「本になり、ようやく作家になったなという感じです」と喜びをかみしめている。
 飯田さんは、この本の表題作で1974年、高橋三千綱らと同時に群像新人文学賞を受賞し、デビュー。選考委員の小島信夫に〈「迪子とその夫」には全く恐れ入る。どうしたってこの人を賞からはずすわけには行くまい。世の中にはうまい人が、名前も知られずにいるものだ〉と評価された。
 しかし、飯田さんは受賞時に40歳を目前にした中年で、作品も家族を題材にした地味な私小説である。その後は87年に芥川賞候補に一度なったきり。年1編の中短編を文芸誌に発表する寡作な作家に日の当たることはなかった。
 群像新人賞の受賞者だけを見ても、飯田さんの受賞2年後の76年には村上龍が「限りなく透明に近いブルー」で登場、78年は中沢けい、79年には村上春樹……。若い戦後生まれの世代が脚光を浴び、今日の十代作家の活躍の時代に至る。
 こうした中で、「大人の読める小説こそ注目されるべきだ」という文芸評論家、勝又浩らの助言を受けた草場書房が単行本化した。すでに町田康や陣野俊史らの書評が出たほか、中沢けいらも批評で好意的に取り上げている。
 作品は看護婦長をするなど生活力旺盛な妻と、うだつが上らない夫との暮らしをユーモアを交えながら描き、「夫婦」という関係の不可思議さを絶妙に伝える4本の連作からなる。素材は、ありきたりといえばありきたりだが、今読み返しても「鮮烈さ」がある。「新鮮」だが、「鮮烈さ」はない最近の一部の若手の作風とは対極にある。
 飯田さんは「これからも、自分という世界をどこまでも追究しつつ、時代の風化に耐えられる作品を書いていきたい」と抱負を語っている。
――鵜飼哲夫



東京新聞 読書欄 2006年7月9日(土) 読書



「本の雑誌」 2006年7月号 自在眼鏡



夕刊フジ 2006年7月26日   全てに主導権を握る妻に夫は……





                                                      

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