野樹かずみ歌集 もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまの月をみているとおもう
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野樹かずみ歌集
もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまの月をみているとおもう
洪水企画発行 草場書房発売
A5変形 並製本 120頁
定価(本体1800円+税)
ISBN978-4-902616-33-0 C0092 |

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野樹かずみ(のぎ・かずみ)
1963年愛媛県宇和島市に生まれる。広島大学文学部卒業。在学中、在日韓国人被爆者の被爆体験の聞き書きに携わる。1991年、第34回短歌研究新人賞受賞。この年から東京に住む。1994年、フィリピンのゴミ山を訪れる。翌年からゴミ山の麓にあるフリースクールの運営を支える活動をはじめる。2001年から広島在住。2009年「未来」年間賞受賞。歌集『路程記』。河津聖恵との共著に『christmasmountain わたしたちの路地』(澪標、2009年)、『天秤 わたしたちの空』(洪水企画、2009年)がある。
『もうひとりのわたしがどこかとおくにいていまこの月をみているとおもう』あとがきより
いまもそのページに、栞が垂れていて、すぐに見つけることができた。
エミリ・ブロンテの詩の四行。
何がそのとき目覚めさせたのか 幼な子は
父親の住まいの戸口から さまよい出て
あやしい月光の 照らすとき
人影もない荒野に ただひとり身を横たえた
『エミリ・ブロンテ全詩集』(中岡洋 訳 国文社)
この詩を読んだのはいつだったろう。たちまち子どものころの夜のなかに連れてゆかれた。家族の寝静まった真夜中、そっと家を抜け出して、そんな時間には人も車も通らない表の道に立って、ときどきすわったり寝ころんだりして、空など見上げた。向かいの田んぼの蛙の鳴き声、虫の声。冷えた草の匂い。裏山の木々のざわめき。星と、月。
そういうとき、どこかにもうひとりの私がいると思った。もうひとりの私がいて、いま私が見ている月を、同じように見ている。もうひとりの私は、だれだろう。いつか会えるだろうか。そしてどこか遠くで、もうひとりの私も、いまそんなふうに思っていないだろうか。
それから歳月がずいぶん過ぎて、たくさんの出会いがあり、別れがあった。あるとき、夜行バスの窓から満月が見えて、ずっと見ていた。いつか人生の全部の記憶は夢になり、この月を見ていたことだけが人生の記憶の全部になるかもしれない。思い出すあの満月は、思い出す度に大きくなる。
(後略)
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